中國西域旅行記 - その 8 -


14.鳴沙山のジュース売り

 夕食を食べ、夜8時から鳴沙山に向かう。 夜の8時と言っても北京時間で、しかもサマータイムだから、 実際の感じでは夏の午後4時くらい。まだ太陽は天高く輝いている。

鳴沙山遠景→

 例の小形バンで砂漠へ、ポプラ並木を抜けると大きな砂丘が現われる。 砂丘が大きいことは分かるのだが、余りに無機的な景色なので 遠近感がさっぱりつかめない。 鳴沙山のラクダ乗り場はいかにも観光地と言った雰囲気で、人がわらわらとおり、 ラクダ使い、物売り、客がごっちゃになっている。 だが何と言ってもここの主役はふたこぶラクダだ。 おとなしく月の砂漠を荷物を背負って歩いていくなんて童話的なイメージなど 微塵も感じさせない、獣の臭いと不機嫌極まる鳴き声でうかつに近づく よそものを威嚇する。 『俺がお前を乗せてやって、飼い主が稼いでるんだ』とでも言いたげな眼で見る。 実際、機嫌が悪いと反芻途中の口の中のものを頭から浴びせるとか。 鳴沙山の麓の月牙泉まで約一キロで10元(‘92のレートで260円)である。 18人で16頭のラクダに乗るとちょっとした即席キャラバンの出来上がりとなる。

 10歳くらいの女の子(だと思う)が手綱をひくと、 出し抜けにラクダが後足から立ち上がる。 そのことは知っていたのに危うく頭から転げ落ちそうになり、 ラクダのこぶのごつい剛毛をつかんで耐える。キャラバンが歩きだす。 わざとやってるんじゃないかと思えるほど背中がゆれる。 手綱を引く子供がニッと笑いかけて来る。 前のこぶにつかまってぎこちなく笑い返す。10分余りで月牙泉の近くに着く。 そのすぐ北にあるのが鳴沙山らしい。一言で言うと巨大な砂丘である。 他にもこんな山がいくつもまわりにあり全部ひっくるめて鳴沙山とも言うとの事。

←ラクダです

 水筒の水を飲んで登りだす。ぐっと踏み締めると砂が液体のように流れ足が沈む。 砂丘は意外に傾斜がきつく普通の山登りの何倍も体力が要る。 仲間の一人が言う「こりゃ、蟻地獄だぁ」。 もがきながら頂上へ、余程つらそうに見えたのだろう、 タオルをかぶって座っている中国の人たちが拍手してくれる。 驚いたことに頂上からはハンググライダーが飛び立っている。 ここにジュース売りの婆ぁさんがいる。きっと高いだろうと思って、要らないという。 月牙泉が下に見える。カメラフレーム一杯になるようにと下に降りる。 砂丘は下の方が急傾斜で、柔らかい砂が衝撃を吸収してくれとても楽に降りれる。 富士の須走りよりさらに楽で、降りるときは月面に居るように走れる。 楽過ぎて降り過ぎる。またもがきながら登る。 そこに飛び跳ねるように子供がやって来てジュースを買えとばかりに差し出す。 要らないと手を振ると、ピョンピョンと登っていってしまう。 後で知ったのだが、ここのジュースはどれも1元だった。 知ってたら買っていたのに……。

←月牙泉

 下に降りたらもう夜の九時過ぎだが、太陽は夕日にすらなっていない。 予想外にへとへとになって、ラクダに乗って入り口へ。 『ああ、楽だ!』紀元前の遺跡から発掘されそうな冗談が出る。

即席キャラバンが行く→

 砂漠の昼は突然終わる。十時過ぎに敦煌に着いたときには夜になっていた。 『何だあれ!?』『どうなってるのこれ?』……町の大通りは光と人であふれていた。


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