ヴィオラ・ダ・ガンバの魅力

講師: 神戸愉樹美

ヴィオラ・ダ・ガンバって、形はヴァイオリン属に似ているようで、細かく見ると結構違っていたりもする楽器ですが、音色や曲との相性の面でどんな違いがあるのでしょうか。どちらも弾きこなす神戸先生に、弾き比べをまじえながら解説していただきました。


楽譜の違い

現在のヴァイオリン教則本に載っているLa Folia(コレルリ)の楽譜と、その元になった原楽譜を比べてみました。現在の楽譜は、強弱記号や表情記号のほか、弓順を表すスラーなども追加されています。これに対して原楽譜はあっさりしたものです。教則本という性質もありますし、編集者の考え方にもよるのでしょうけれども、こうやって並べてみると、現在の楽譜があまりにも「饒舌」であることに改めて気付きます。

バロック・ヴァイオリン

現在の楽譜に従ってモダン・ヴァイオリンで演奏すると、拍子の区切りでないところで弓を返すところが出て来たりして、初心者はこれでがたがたになったりするものです。次に原楽譜に従い、バロック・ヴァイオリン(右写真)で演奏していただきました。リズムは単純になっているし、弓順の指定もないので拍の頭の自然な箇所で弓を返すことができ、ある意味で初心者にも弾きやすいように思えます。もちろん、楽譜上のリズムが単純だからといって、演奏上のリズムがメトロノームで計ったように単調ではないし、楽譜に書いてないことを「想像」で補い、演奏者自身が「創造」していかなければならないという、別の難しさがあります。

(順序が前後しますが)講演の後半で、M.Maraisによるヴィオラ・ダ・ガンバ用のLa Foliaを演奏していただきました。弦楽器ならではの重音を多用し、しかも6本の弦をさまざまに駆使しているため、ヴァイオリンで模倣しようとしたら一部の音を省略せざるを得ないだろうと思います。

曲想の違い

ブラームスのソナタなどに代表される「鬼気迫る」曲想というのは、弦や弓の張力が強いヴァイオリンでなければ表現しきれません。一方ヴィオラ・ダ・ガンバが得意とするのは、少人数の聴衆に対して語りかける、あるいは演奏者どうしが対話するような音楽。大人数を相手に演説するような、声は大きいけれど単調な話し方の対極にあります。

ヴィオラ・ダ・ガンバ ですから、今回は1人だけだったので独奏しかできなかったのですが、本当は何人かでいっしょに演奏する「コンソート」にヴィオラ・ダ・ガンバ(左写真)の醍醐味があると強調されました。何人かの重奏というだけならば、ヴァイオリン属用にも弦楽四重奏などの編成の曲がありますが、各演奏者の役割についての考え方が違います。第1ヴァイオリンが旋律を弾き続け、他の演奏者は和音をつけるだけ、というのではつまりません(その反動で、特にヴィオラ奏者は、たまにソロが出てくると異様にはりきりますよね)。そうではなく、各演奏者が対等に、相手の話を聴きながら交互に自分の主張もする、という感じ。それにしても、文章だけでこういう説明をするのって難しいですね、と書きながら思っています。

地域によって「趣味」が違っていたのもこの時代の特徴。ルソーは著書の中で、ベルサイユ宮殿内の趣味のよさ(音楽に留まらず、建物の装飾なども)をやたらと強調しています。上述の「対話するような」音楽というのもそうですし、装飾音やイネガルのつけ方などにも「フランス流」の趣味があり、イタリアやイギリスの趣味を排しているようです。ヨーロッパ内の地域差は、むしろ中世の方が小さかったらしいですね。

弓の比較

ヴィオラ・ダ・ガンバ用の弓は、毛の張力がそれ程強くなくてもよいため、スティックの形も違います。ヴァイオリンの場合、毛にはあまり手でさわらないようにしようなどと言われますが、ヴィオラ・ダ・ガンバの場合は指で毛の張りを調整しながら演奏するため、いつもさわっていることになります(その部分に松脂をつけて、べたべたにしてしまう初心者が結構いるそうな)。持ち手が反対で、手の甲が下になるような向きに持つほか、強い拍は弓を押す方向(上げ弓に相当)に動かして演奏するなど、何もかも反対になっています。


関連記事(神戸先生が執筆したもの)

参考書籍


会の近況報告を少し

講演の合間に、会の紹介を兼ねてJohn CoperarioのGray's Innという曲を演奏しました(編成: リコーダー(S、A)、バス・ガンバ、スピネット)。いろんな楽器の持ち味を生かせる曲を探すのが大変、という話を漏らしたところ、先生から、編成に合わせた曲を自分で作ってしまってはどうか、と言われてしまいました。それも面白いけど、手をつけたらやっぱり大変そうだなあ、と思っているこのごろです。